壬生狼一家

Yahoo!ブログから引っ越ししてきた新参者です。宜しくお願いいたします。

漢の富士登山道~珍道中~ ≪第26回≫

残念ながら富士山山頂からの絶景を拝むことは出来なかったが成し遂げた達成感だけは3人共に得ることが出来た。

砂走りの下山道を下り始めた。この下山道は慣れないと非常に歩きにくくすぐに転倒してしまう。ご夫婦は上手く降りれるか心配であったが二人の歩みを見ていると心配するに値しなかった。単調な下山道を軽快に下りていく。しばらくすると前方よりブルドーザーが上がってきた。富士山には登山道、下山道のほかに通称『ブル道』と呼ばれるブルドーザー専用道がある。このブル道は途中から下山道と共有することになる。

主に富士山の各山小屋に物資を運搬している。食料やプロパンガスを五合目より運んでくる。下りる時は各山小屋から出たゴミを積んで下ろしていく。一度このブルドーザーに乗って砂走口登山道五合目から本八合目まで上がったことがある。



大学一年生の夏、初めて富士山を訪れた時だ。『胸突八丁 江戸屋』にて住み込みでアルバイトすることになり前日、御殿場に江戸屋旅館に一泊し早朝、車で迎えに来て頂きブルドーザーの出発点まで送っていただいた。車から各山小屋へ届ける荷をブルドーザーに移す作業を手伝い間もなくしてブルドーザーは爆音と共に動き出した。最初のうちは斜度もそれほどないので軽快に思ったよりスピードを上げて走る。
思わず、『えっ』って声がでてしまった。かなりの斜度の斜面に方向転換したのだ。エンジンの音は更に大きくなりその斜面にキャタピラが差し掛かる。急激にブルドーザー内が傾く。黒い排気ガスの量が大幅に増える。会話など全く出来ない、エンジンの爆音何も聞こえない。揺れもひどい

所々で荷物を下ろしていく。その都度、荷下ろしの手伝いをする。
山男は口が悪い。十中八九、口が悪い。ブルドーザーのハンドルを握るこのおじさんも当然口が悪い。ちょっとでももたもたすると全くストレートな言葉が飛んでくる。当時の私にはちょっと辛い言葉であったが何しろ注意されないようにすることに努めた。

五合目を出発して二時間ほどで本八合目『胸突八丁 江戸屋』が見えてきた。

不思議なことに、遠足のバスですらエチケット袋を手放すことが出来なかった私がこの揺れの中で『乗り物酔い(ブル酔い)』する事はなかった。しかし頭痛が猛烈な勢いで襲ってきた。初めての経験であった。これが高山病なのだ。通常充分時間をかけて高度慣れをさせてから五合目を出発し、休憩を入れてながら5~6時間掛けて登る所を一気に本八合目まで高度を上げてしまった付けが頭痛という形で襲ってきたわけだ。

山小屋に到着し自分の荷物をブルドーザーから下ろしこれから一緒に働く山小屋の人たちに挨拶早々、寝込んでしまった・・・。
高山病から完全復活を遂げたのはそれから二日後であった。(アルバイト代は引かれなかった、ほっ)

よく『あのブルドーザーで登ってくれば楽でいいよね』『乗ってみったいなぁ』という声を耳にする。ある意味このブルドーザーには一般のお客は乗れない。このブルドーザーに乗ることは非常に貴重な経験で、乗りたくても乗れない人は多い。私もこのブルドーザーに乗れたことに関して嬉しいし、凄い経験が出来たことを今でも誇りに思っている。

しかしあの苦しさは富士山登山を成し遂げ山頂に立った時よりも何倍も、何十倍も苦しかったのであった。


                                                                                       次回へ続く・・・