壬生狼一家

Yahoo!ブログから引っ越ししてきた新参者です。宜しくお願いいたします。

漢の富士登山道~珍道中~ ≪第25回≫

元祖室から河口湖口登山道に合流し山頂を目指す。もう大半の登山者は数時間前にこの道を通過しており、目立った渋滞などはない。
自分たちのペースで山頂を目指せる。本八合目の山小屋もすぐそこに迫ってきた。
富士山ホテル、本八合目トモエ館、胸突八丁江戸屋と続く。胸突八丁江戸屋で山梨県側河口湖口登山道と静岡県側砂走口登山道が合流する。

この胸突八丁江戸屋が私が学生時代に働かせてもらっていた山小屋だ。当時は山小屋の片隅に「のりPハウス」なる、酒井法子さんのタレントショップも併設させており、Tシャツやトレーナー、キーホルダーなどの販売もしていた。
熱狂的なファンの方も多くほぼ全種類購入していくお客様もいらっしゃった。特に人気だったのは「高山病ノリP」。ノリPマスコットの青色バージョン。通常はピンク色をしているそうだ。

思い出を語っても語っても尽きぬほどこの山小屋で様々な経験を積ませてもらった。何度来てもこの場所はあの頃に戻らせてくれる。


そんな記憶を思い出しながら『胸突八丁江戸屋』を越えていった。
ご夫婦もだいぶ昨日より元気を取り戻している。愚痴っぽいことも口にしなくなっていた。

本八合目から頂上を望むが全く濃霧に包まれ姿が見えない。

『これじゃ山頂行っても何も見えないかもしれないね』

『見えないかもしれませんが頂上に達したっていう何事にも変えがたいものは一生残りますよ』


九合目を越えると最後の試練、斜度は急激に上がり一歩一歩がつらくなってくる。

当然我々の足も次第に前へ出なくなってくる。

そんな時『もう限界、キツイ。私はここで待っていると奥さんが言い出した』既に九合目を越えている。どんなに遅くても1時間と山頂までかからない。

『もう無理です。歩けません。』
『もうすぐそこですからがんばりましょう』

この場所、この登坂道が一番きつい。十分私も分かっている。
我々の周りを霧が包み込んでおり、山頂も全く見えない。見える目標に向うことと、全く見えないものに向うことは精神的に違いすぎる。
限界を口にする気持ちは十分に理解できる。このご夫婦には見えない山頂の鳥居も、私にはどんな霧の中であってもだいたいの位置で見ることができる。この邪魔な霧さえ消えれば目標が見えてくる。つまり足が前に伸びていくのだ。

そんなことを考えていると一瞬霧が流され山頂の鳥居が現れた、数秒して幕が下りるかのように姿を消した。このご夫婦はしっかり見ていたその瞬間現れた山頂鳥居を。

『なにっ、すぐそこじゃない』
『だから言ったじゃないですか(笑)』

一瞬現れた山頂鳥居は眼前50mほどの距離だった。また深い霧に包まれた山頂鳥居に辿り着き私たち3人は成し遂げることが出来た。
山頂からの眺めは・・・。全く見えない、何も見えない。

本来晴れ渡っていれば眼下に山中湖、右手奥には芦ノ湖その更に奥には相模湾も一望できる。
今我々に見えているのは10~20メートル先の切り取られた富士山の一部。

お鉢巡りも残雪の影響で通行止めだという。


『さっさと下りましょう。』というご夫婦の顔には疲れが見えている。
『折角山頂まで来たんだからお土産でも買ったらいかがですか?』にも

『そうね写真だけ撮ってもらおうかしら』だけであった。           
                                                                                    次回へ続く・・・