壬生狼一家

Yahoo!ブログから引っ越ししてきた新参者です。宜しくお願いいたします。

富士山登山2007 ~馬返しからの挑戦~ 第10回

さあぁて、『オヤジ ベンジャミン』率いる3人衆は何処まで下っているのか心配しながら山頂から下山道に入り、まずは『砂走口江戸屋』を目指す。足元の砂状の下山道は乾燥し、砂埃が舞い上がる。沢山の富士山登山者が下山するので砂埃の舞い上がりる量も半端ではない。
特に私の舞い上げる砂埃は他の下山者よりも大きく舞い上がる。よく私の下山はする姿はブルドーザーに例えられるほど砂埃を舞い上げる。
私の後ろを付いてきていた二人の同行者も私の舞い上げる砂埃にやられ距離を置いて下山してくる。

前方には『オヤジ ベンジャミン』のチームの姿は見えない。流石に我々がお鉢巡りをしている間に最低『砂走口江戸屋』は既に後にしていることであろう。

先月まで下山道横に残っていた残雪もなくなっている。日差しは強く夏を満喫といったところだ。単調にジグザグした下山道がは八合目のしたまで繋がっているのが良く見える。『若い衆二人組』はかなり私から距離をとって下山中だ。
単純な下山、そんな時はいつも自分の頭の中では音楽が流れているか、何故か『1、2、3、・・・・100、101・・・』と足の運んだ回数を自然と数えているかどちらかだ。体力的に落ちてきているときは後者の数数え、調子いい時は音楽が流れる。今は音楽が頭の中を流れている。
研ナオコの『夏をあきらめて』、ケツメイシ『夏の終わり』、たまには『夏、夏、夏、夏、ココナッツ♪♪』が流れ出したり、
『かたぁわぁ~ふるいがぁ~、しけにぃ~わぁ~、つよいっ♪ おれとぉ~あにきのぉ~よぉ~、ゆめのぉ~ゆりぃ~かご~さぁ~~♪♪』
鳥羽一郎の『兄弟船』が流れ出す。どうなっているんだ私の頭の中は・・・。

順調、いたって順調に『砂走口江戸屋』が近付いてくる。気温もだいぶ上がってきたようだ。よく言われるのは100メートル標高が上がると0.6℃気温は下がる。これは嘘か誠か、その計算以上に気温は上がっているような気がする。時々転びそうになるものの『金剛杖』を上
手く扱ってこけない。

結局『オヤジ ベンジャミン』軍団とは出会わず、『砂走口江戸屋』に到着した。余りモタモタしていられないのでザックを受け取り下山の準備に掛かる。奇声緩和尿意男は足の痛みを主張しだした。
『やっべぇ!! 親指があたって痛いッス!!!!』
そりゃそうだろ、「あなたのNIKEの登山靴は女性用ですからっ!!残念!!!!」    ・・・・古かったね。
この男は一年通して私の前で痛みを訴えることが多過ぎる。先日も『痛ってぇよぉ~』の姿を見たばかりだ。



とある新橋の飲み屋から駅に向う途中彼は歩道橋に激突した。その夜は『大澤崩れ』と『奇声児』を連れ某航空会社3社と共に宴を行いその帰りであった。私と『奇声”女性用”男児』と『大澤崩れ』は新橋駅へ向って並んで歩いていた。気付くと一人足りない、

私   『えっ?? 女性用男児は???』
大澤崩れ『知らんッす?!』

二人は振り返る。50メートルほど後方に蹲る影が見える。体外こういう時は彼だ、女性用の登山靴を買ってしまう男である。

私   『なになにっどうしたん?!?!』
何故か笑いながら男は答えた 『あっはっは♪♪ 痛ぇっすよ♪♪』
彼は顔を手で覆っていた。 『何したん??、どしたん??』
おもむろに手をどけると左の額から夥しい血が流れ落ちているしかし彼は笑っている、つぼに嵌まったように腹を抱え笑っている。
足元には真っ二つに折れたメガネが転がっている。
『痛いっす!! マジ痛いッす!!  わっはっははははwww』
この男は本当に痛いと笑い出すのだ。
 
その夜、『流血坊主』は品川プリンスホテルの前で朝を迎えたそうだ。何故だか誰にも分からない・・・・。




その時のことがフィードバックされてきた。笑っていない彼は”ちょっとの痛みを大袈裟に演じるのが得意な一面”を披露しているところなのだ。

山小屋からいつもの男が出てくる!

山小屋の住人『おお、今下りてきたんかい。』
私     『ただいまっす。。。先に3人下りて来たと思うんですけど、どんくらい前に下山していきました?』
山小屋の住人『んん、10分くらい前だと思うよ』

私     『えっ?? たったの、たったの10分前なの?』
山小屋の住人『そうね長く見ても20分前じゃないかな??』


我々は食料を出し、腹ごしらえを始めた。20分ほど休憩とエナジーチャージを行う。

『よっしゃ!! 行くか!!』ここからは、山梨県側の下山道と、静岡側下山道は分かれることとなる。
山小屋の住人に挨拶をすませるとザックを背負い上げ、『砂走口江戸屋』を後にした。

私   『奇声男児! ガツッと下ってバシッとオヤジベンジャミンたちと合流しておいてくれ!!』
奇声男児『OKっす!! じゃあ行ってきます!!!』

元気良く下山道を駆け下りていく!! 元気だ!! 凄く元気だ!! 無鉄砲な走りだ!! 
ここ一発のド根性を時折見せるが、まさに今私と野生メガネの前でその姿を見せてくれている。
足痛いんじゃなかったの? そこも奴のいいところだ!!!


私と野生男児はこれでのんびり下っていける。やたら速い『無鉄砲な走りを見せる男』は砂埃を大量に巻き上げその姿はすぐに見えなくなってしまった。本当に速い。相変わらず単調な下山は続く、砂埃もモックモクと上がる。腰に巻いていたバンダナで鼻と口を覆う。
会話などしていられない、砂埃だ。気温は更に上がり、汗が流れ出てくる。その汗に砂埃が吹き付けられ腕なんかは砂だらけになっている。首筋などもザラザラだ。
『砂走口江戸屋』から先には山小屋は現れない。目印になりえるものといえば途中の七合目に設置されているトイレのみである。
ポイントが余りないというのは精神的に疲れてしまう。ようやく七合目の山小屋が目に入ってきた頃、三人衆の姿を捉えることが出来た。
すでに七合目のトイレの横には『奇声男児』と、久しぶりに目にした『サクランボ男爵芋』が休んでいる。『逆境レディー』はもう少しでトイレに到着しそうだ、『オヤジ ベンジャミン』はかなりスピードを落として疲労の色を隠せず下山中だ。軽ぁ~るく、追い越す。
『オヤジ ベンジャミン』はヘロヘロであった。汗が出捲くっている。やがて汗は塩へと変わっていくだろう。

我々が7合目トイレに到着すると同時に逆境レディーも到着した。先に到着した『無鉄砲な走りを見せる男』と『肉汁男爵』はボロボロに疲れ果てていた。『無鉄砲男』はまた弱音を吐く。

『親指があたってやばいっす!! 痛いッス!!!! 無理っす!!!!』

特に相手にはしない、たいした事ないからである。ここで今後の作戦を練る。
時間は11時半である。ここから6合目の河口湖口と吉田口のの分岐までは30分として、分岐から『馬返』までは約2時間とされている。
しかしここは私にも初めての下山になるので時間が読めない。
『馬返』⇒『北口本宮富士浅間神社』⇒『溶岩温泉』⇒『河口湖IC』~中央道~『八王子JC』~圏央道~『圏央鶴ヶ島IC』⇒『某駅』駅着を最低でも21時半で見ていみると、『馬返』着は14:30が求められる。まずは六合目の分岐までいくこととする。三人衆の足がどれほど残っているのか確かめるために。

ちょいとオーバーペースでスタート、ここでも『笑顔の野生児』は笑顔だ。さてどのくらいのペースまで着いてこれるかな。先頭を引っ張る。なぜか『サクランボ男爵』が着いてくるというか、私を捲くった!!!

『 何っ!! この男何処にこんな力が?!?! 』

ほんの一瞬の『サクランボ男爵』劇場であった。すぐに両膝に手のひらをあて肩で息をして動きが止まった。いったいなんだったんだ今の勢い。完全にバテている。何故、何の為に無駄に力を使ってしまったのか?

さらりと追い越して先を急ぐ、『オヤジ ベンジャミン』と『逆境レディ』は全く視界に入ってこない。足が痛いはずの『無鉄砲野朗』は平然と後ろを付いてくる。『笑顔の野生児』は1%の疲労も感じない陽気な登山者に見える。タフだこの男は。少し遅れてなんとあの男、『肉汁ジューシー男爵』が怖ろしいほどのクシャクシャの顔でへばりついて来る!!何が彼をそこまでさせるのか?更に気温が上がり暑い。

やがて富士山六合目の安全指導センターに到着する。しばし『ベンジャミン&レディ』を待つ事にする。日差しは強く今までの汗も湿度がないせいか乾いていく。心地良い日差しが気持ちいい。ふと『肉汁男爵』を見る。顔はクシャクシャだ・・・・んんん???
何やらTシャツに浮かび上がっているではないか??  んんん???  お腹の丸みに沿うように白いものが・・・。胸の辺りには??
何か白い目のようなものが2つ浮かび上がってきた。目の下は彼の乳輪があるとおぼしきポイントに間違いない。
そう!! 彼の紺のTシャツにはにっこり笑った顔が塩により浮かび上がっている。満面の笑みを浮かべたそのTシャツに皆釘付けになってしまった。クシャクシャのに顔を歪めて苦しんでいるにも拘らずTシャツはにっこりと笑みを浮かべていた。

もう二度と彼はこのTシャツで登山に出かけることはないだろう。


よれよれの『ベンジャミン&レディ』が下りてきた。また昨日のように湯だったかのように髪をビッチョリ濡らして下りてきた。『逆境レディ』
の表情はやっと血の気を感じるまでに回復していた。6人揃ってしばし休憩をとる。ここから『馬返』までは標準で2時間とされている。
12時を回っている。調子よければ14時半くらいには馬返し到達か?!?全ては『ベンジャミン&レディ』に掛かっている。この二人を何としても脱落させずに『馬返』に到達させなければ、これが富士山登山の最後に私に課せられた責務であった。
15時までに『馬返し』付かなければ温泉はPASSしなければならない。それは今後の帰宅の徒を計算しての判断であった。
『よおし!! そろそろ下るぞ!! 準備しとけな!! 15時までに全員馬返に到達したら温泉!! 到達できなければ温泉PASSして直帰するぞ!!  気合入れて下りてくれ!!』

ここからはバラバラで下りることにした。

TOPバッターは『パワー漲る野生山男』彼はタイムアタックでどれだけ速く馬返しに着くかチャレンジだ!!
2番を行くのは『足痛いはずの奇声児』
3番目と4番目は『ベンジャミン&レディ』
5番目を行くのは『笑顔満開Tシャツのお塩男爵』
最後は私の順だ!! 

ではスタート!! 12時19分『パワー漲る山男』は走りながら視界から消えた。
『足痛いはずの奇声児』は12時21分スタート、大きな奇声と同時に走って消えた。
『ベンジャミン&レディ』はその後すぐのスタートだ
『笑顔満開Tシャツ男爵』は12時23分に耕運機の速度でドスドス消えていく。

私はしばらく休憩をとり5人の気配が全く消えた頃ザックを背負い上げ後を追った。

かくして富士山最後の馬返しまでの旅が始まった。


                                      次回へ続く・・・・・