壬生狼一家

Yahoo!ブログから引っ越ししてきた新参者です。宜しくお願いいたします。

漢の富士登山道~珍道中~ ≪第28回≫

『砂走口 江戸屋』を出ると山小屋は存在しない。最終的に五合目まで山小屋の前は通らない。

ある程度目印となるのは七合目の公衆トイレだけだ。その目印は既に目に入ってきているのだが中々着かない。単調な長さ100メートルはば3メートルほどのジグザグ道が果てしなく続く。

ご夫婦もバランスを崩しながら下りてくる。旦那さんは時々転倒する。その度に奥さんは心配そうな表情をしながら怒ったよう声で
『大丈夫? 無理しないでよ! 駄目なら駄目って言うのよ!!』と大声を発する。不思議な光景だ。
しっかりした登山靴を準備せずスニーカーで富士山登山に望んでしまったことがここに来て響いた。グリップしない靴底のため滑ってしまうのだ。多少グリップしない靴を履いていても富士山金剛杖をうまく使えれば転倒を防ぐことが出来る。しかし、この御夫婦は登山用の杖を持たず、老人用の杖を代替している。登りでは杖をそれほど必要としないが下山時には私の場合は必需品に感じる。下山時には老人用の
杖では全く役に立たない。

この砂走の下山のコツは

,に股で踵から着地し8幅程度に広いスタンスで歩く

手袋は必ず着ける。後ろに転ぶのは良しだが、前方へ転ぶのは非常に危険なのでやや後傾姿勢と保つ。常に踵着地を意識。踵着地が甘くなると下山スピードが上がり小走り状態になりがちなので転倒の恐れが増す。慣れてくると小走り状態でも下山可能だが初心者の方はやめましょう。

天気は更に回復し、夏山の形相を呈してきた。相当汗も流れ出てくる。ようやく七合目のトイレに到着した。
ご夫婦も気温の上昇と、下山の疲労が溜まりだしバテ始めていた。しばし休憩をとることにする。『ラサ服』を詰め込んだザックは思った以上に重量を増していた。荷を降ろし、傍らの石に腰掛ける。同じ様にご夫婦も並んで座っている。

『あとどれくらいなの?』
『そうですね、このペースだと1時間強ってとこですね』
『えっ!、1時間も』
『いやいや、たったの1時間じゃないですか。ここまで何時間富士山歩いてんですか? お二人は10時 間以上ですよ。あと1時間しか この登山を楽しめなくなってしまったんですよ。』
『何言ってんのよ。もう懲り懲りよ!』

陽射しは強いが心地良い風が吹いている。のどかな時がのんびりと流れていく。この旅の同行者ともあと数分でお別れである。私は六合目からは吉田口下山道方面へ、ご夫婦は河口湖口下山道方面へ道を別にする。

昨日の北口本宮富士浅間神社を出発して何時間富士山を歩いているのだろう。出発した時のことが随分と前のことのように思えてならない。
このご夫婦と知り合ってまだ24時間も経っていない。
しかしこの親近感はなんだ。全く気を使わないでいられる感覚は何だ。この連帯感はなんなんだ。
時として私はこのご夫婦に説教じみた言葉も発した。
ご夫婦は数え切れないほどの愚痴を私に溢した。


既に標高は2700メートルほどまで下がっていた。

標高2390メートルでお別れだ。


しんみりしてきてしまった。                                                                         次回へ続く・・・