壬生狼一家

Yahoo!ブログから引っ越ししてきた新参者です。宜しくお願いいたします。

漢の富士登山道~珍道中~ ≪第19回≫

既に吉田口の北口本宮富士浅間神社を出発して10時間経過している。総登坂距離はいったいどれくらいに達しているのだろうか。
私は今まだ八合目に届いていないのだ。本来の標準所要時間はここまで8時間20分ほどのよだ。標準より劣っているのだ。

情けないなぁと思いながら、早く山小屋に着いてゆっくり休みを取りたかった。しかしこのペースじゃあと二時間はかかる計算だ。
自分に負けないで頑張ろうと自分自身に言い聞かせていた。

そろそろ東洋館から八合目を目指そうとしていると、豆電球が灯るか、灯らないかのか弱い光を発する豆懐中電灯を手にしながら夫婦が上がってきた。どうやら電池がなくなったようだ。
『全く見えないよ』とボヤキながら東洋館に夫婦も到着した。

私の予備の電池を使ってもらおうとしたが電池の大きさが違っていた。切れた電池を山小屋で購入しようとしているが電池だけは売っていなかった。仕方なさそうにヘッドライトタイプのものを一つ購入していた。横への光の広がりがないもので二人で一つの明かりを頼りに岩場を上がるのは難しい。

私のライトは明るい、尚且つ横への広がりもかなりあるタイプのヘッドライトである。

そこから今まですれ違いの登山を続けてきたご夫婦と共に富士山登山を続けることになった。

ご夫婦は体力的には限界に近付いているが私の『ここで休んだら山頂は厳しくなる』の言葉を信じ、少しでも上を目指していた。
一緒に登山を始めると奥さんはしゃべる、しゃべるで常に何か話しかけてくる。
『あとどれくらいで着くの』『この先もっと急になるの』『六合目から七合目までと、七合目から八合目まではどちらがきついの』

少し静かになったと思うと、

『ちょっと休みましょうよ』

何しろこれの繰り返しであった。
『あとどれくらい?』・・・『ちょっと休みましょうよ』、・・・・・『あとどれくらい?』・・・『ちょっと休みましょうよ』

蓬莱館に差し掛かったところでどうやら限界に達したようだった。既に周りには登山客の姿が殆どなくなっていた。
                                                                                      次回に続く・・・