壬生狼一家

Yahoo!ブログから引っ越ししてきた新参者です。宜しくお願いいたします。

漢の富士登山道~珍道中~ ≪第16回≫

六合目から七合目までこれほどペースを崩したことはなかった。史上最強の富士登山である。
カリマーの肩と腰への負担も増す一方で、少しでも軽くしたかった。水分を取り少しだけ軽くした。

七合目までの道は果てしなく遠く感じた。
この時点で日のあるうちに八合目江戸屋への到着は絶望的になった。

ただ自分の登山スタイルは崩さないことを心に誓ってゆっくりではあるが登坂し続ける。
私の登山スタイル、それはどんなに遅くても歩みは止めない。『ウサギと亀』の亀スタイルである。
このスタイルの登山は富士山では実に有効で一番早く目的の場所に着く。今までの富士山登山でも五合目から山頂まで一度の休憩もせずに登頂に成功したこともある。

しかし今回はそうも行かない状態になってきた。

次に休憩はとっても座り込まない、つまり立ったまま休憩を取る。このスタイルは崩さないと心に決め、20分に一度程度の立ち休憩を取りつつ着実に標高を稼いでいった。

この頃、気付くと抜きつ抜かれつの状態になっている夫婦が入るのに気付いた。年は60歳程であろうか、富士山登山をするにはやや軽装な感もする。靴はスニーカー?、ザックも?、やっぱりどう見ても軽装である。

ちょっと休憩の時間を長くしても、休憩の感覚を長くしても常に前後50mほどの距離感は変わらない。既に1時間以上はこの状況に変化がない。
ふと足を止め、立ち休憩をとっていると後ろから登ってきた夫婦と始めて並んでの休憩となった。何度も抜きつ抜かれつしていたのでお互いの存在は十分理解していた。夫婦はザックからドライマンゴを出し摘んでいる。やたらと食料が入っているらしい。

おばさんが、けたたましい口調であれやこれやマシンガンの様に話し続けている。おじさんは相槌を打つのみだ。そうとう疲れているのは話し方が愚痴っぽいところから見て取れる。精神状態が追いやられ始めると人間は愚痴をこぼす。

富士山登山の場合こぼされた方も同じような精神状態の為、その愚痴にのってしまうと富士山登山はそこが最終到達点となる。

この夫婦も時間の問題のように私は見ていた。引き返すにはこの時間からだと厳しい。七合目の山小屋まで付いてそこで一泊し翌日下山の公算が高い。たぶん間違いなくそのようは流れに乗るだろう。

そう私は見ていた。                              次回へ続く・・・